「正しい判断」にこだわるな

プロジェクトを進めていく途中で予期せぬ事態が発生して、その問題にどのように対応するか、プロマネとして判断を求められた経験はないでしょうか。

例えばトンネルを掘るプロジェクトを進めているときに、とんでもなく固い岩盤に突きあたるとか、湧き水が多くて予定通りに工事を進められないといった事態が発生したら、どうするのか。ルートを変えるのか、工法を変えるのか、対策を終えてから再開するのか、どんな手を打つのかが問題となります。

こうしたときにプロマネは逃げ出すわけには行きません。重圧に耐えながら「正しい答え」を出すことを、プロジェクト・チームの全員から期待されるわけです。しかし、どれが正しい答えなのか簡単にわかるでしょうか。わからない問題にも答えを出さなければならないのです。「正しい判断」を行うために、どの案が正しいか確認する必要があるのでしょうか。不明な点を調査したり、判断に必要な材料が全部揃ったりするまで検討を続けさせることが必要でしょうか。こうした問題が発生すると、現場での作業は止まってしまい、プロマネの判断待ちとなります。これはプロマネにとって恐ろしいことです。進捗は遅れて、コストはどんどんと膨らみます。その上、プロジェクトの停止期間が長引くと士気の低下が発生します。ですから、判断は可能な限り迅速に行い、現場を停滞させないようにすることが重要です。

では、判断を急ぐあまり、「正しい判断」でなくてもかまわないのでしょうか。昔からプロマネは「勘と度胸」で判断しろといわれてきました。これではまるで地雷原を、勘と度胸に頼りながら歩いて渡るようなもので、運に見放されないことを祈るのみです。「正しい判断」のために、プロジェクトを長期間止めることはできない。ここにプロマネの最大の悩みがあります。

この問題は、「誤った判断をしない」というように考え方を切り替えましょう。判断を悩む理由は大きく分けて2 つあります。1 つは評価項目があいまいなこと、2 つ目は「最も正しい案」を選ぼうと悩むことです。この2 つを解決すれば、判断の時間は短くできます。

判断にあたっては、解決案を考える前から、判断のための評価項目を明確にしておくことです。例えば配偶者を複数の候補の中から選ぶとします。評価項目として、収入、スタイル、性格、家庭環境、美形度、などを考えるとします。評価の途中で、「料理上手」などの追加的な情報が出てくるかもしれませんが、当初の評価項目にないものは対象外としないと混乱してしまいます。

次は「誤った判断をしない」という点です。評価項目について全部の項目で問題ないという人はいません。だからこそ迷うのです。高収入だが家庭環境の条件に合わないとか、美形ではあるが性格が悪かったりします。こうしたときに、順位をつけたり、「最も正しい選択」にこだわったりすると大変です。よく調べるために、全員とデートしてから決めよう、など考えるとさらにどんどんと遅れてしまうわけです。結婚問題ではスタイル抜群など、自分の最も気に入った点を重視して選んでもかまわないのですが、プロジェクトでは、致命的な欠陥がない選択を心がけましょう。どんなに気に入った点が多くても性格の悪い人だけは避けたい、というように、プロジェクトにおける判断では、最も優れた点のある案ではなく、致命的な欠陥の存在しない案を選ぶべきです。というのは、どんなに良いところがあったとしても、致命的な欠陥を持つ案はプロジェクトの完成に大きなリスク要因となるためです。

こうして致命的な欠陥を有する案を消去法で除いた結果、複数の一長一短の案が残れば、あとはどの案でもたいした違いはないはずです。迷いに迷うような選択であればあるほど、結果的に違いは少ないので、サイコロを振って決めてもかまわないと思います。

好きなところを見つけて選ぶ「恋愛結婚原理」ではなく、断るべき理由が見つからないので受け入れるという「見合い結婚原理」をプロマネは採用すべきです。