物事を正しくとらえる

ユーザーからビジネス要求を集めていると、こんな言葉をよく耳にしませんか。「システムが遅い」、「アプリケーションは信頼できない、よくクラッシュする」、「必要ないことはやってくれるのに、必要なことはやってくれない」、「メニューがわずらわしい」、「単純なことをやるのにキーを何度も打たなきゃならない」。

たいていのプロジェクト・マネジャーはここでユーザーに共感します。彼らの苦痛を取り除くようなソリューションを提案して、ユーザーの気分をよくしようとするのです。本人はよかれと思ってやっているのでしょうが、このやり方は本質的に間違っていると思います。それだけでなく、次のプロジェクトが成功する可能性を低くすると思います。

ビジネス要求を集めるときに大切なことは、カスタム設計のソリューションを提供してエンドユーザーの不満を解消することだという人もいます。これもまた立派な目標であることには同意します。しかし、もしプロジェクト・マネジャーがユーザーの気分をよくしたいことを根拠に、それを最高のソリューションだと判断しているなら、これは致命的な欠陥です。実際のところ、そのマネジャーは先入観なく物事をとらえるよう訓練されていないのかもしれません。

物事を正しくとらえるということは、最高のソリューションを探すということです。ユーザーが正しいと感じることを探すのではありません。ただし忘れないでください。ユーザーは自らのビジネス領域について深く理解しており、その知識を共有することでプロジェクトにすばらしい貢献ができるのです。では、ユーザーからのインプットをどのように利用するべきなのでしょうか?

私がロンドンで経営コンサルタントとして仕事をしていたとき、経験豊かな同僚たちが客観性の重要さについてよく私にアドバイスしてくれました。彼らの教えは、専門家は自分がどれだけ賢いか見せたがるものだ、という自明の理に基づいていました。専門家はそのスキルを使って、正しい質問を投げかけ、根本的な問題を明らかにすることに、もっと時間をかけるべきです。あなたが本当の問題を明らかにしない限り、問題を取り除こうとしても表面をなでるだけになるでしょう。

だれもが、こうした間違いをする恐れがあります。最近、私は大企業向けのマネジメント開発プログラムを設計するよう依頼されました。私の頭をよぎったのは、既存のプログラムを検査するよう指示して、その傷口にすばやく対処すべく駆けつけることでした。そうすれば、ひどい炎症を起こしているところを簡単に治療できることがわかっていました。

幸運にも、ここで私の自制が効きました。私は1 時間かけてシニアマネジャーと真の課題が何であるかについて話し合いました。何かがおかしいと言うエンドユーザーの不平だけでなく、ビジネスの問題についても話を聞きました。結局、私はまったく異なるソリューションを提案しました。その方が彼らのニーズに適しており、根本にある問題を解決するものだったのです。

今度不満のあるユーザーを見つけたら、まずは深呼吸しましょう。そして、日々ふりかかる表面的な症状に対する不満のはけ口になってあげるのです。炎症は実際に起こっているのですから。それから、不満の根本原因が見つかるまで質問を繰り返しましょう。応急処置をすることで、彼らの気分をよくするという誘惑から逃れましょう。プロジェクトの軌道を計画する前に、まず正しい目標に向かっているか確かめることが重要です。