プロジェクト・オーナーは強力なプロジェクトサポーター
著者: 武谷 美世子プロジェクトの失敗というのはアメリカの企業だけの問題ではありません。以前、日本の代表的なIT関連雑誌が実施した調査結果によると、「品質」、「コスト」、「納期」の3つの評価基準で測定した場合、日本の企業が取り組んだプロジェクトの75%以上が失敗と見なされるそうです。
日本もほかの多くの国と同様、各評価基準における失敗の一番の理由は、不十分な要件定義です。失敗リスクの高いのは、業務分析が不十分な場合で、ソフトウェア開発等の情報システムプロジェクトについて言えば、業務分析能力が低い場合、成功の可能性は低くなります。このことは、ソフトウェア開発プロジェクトでは、真の要件を見つけ、特定し、定義するのが、成功のために必須であることを示しています。
システム規模や複雑度にもよりますが、要件定義は大変難しいことがあるにもかかわらず、顧客やプロジェクト・スポンサー、企業幹部といったプロジェクト・オーナーは、プロジェクト・マネジャーにソフトウェアの要件定義を任せきりにすることもあります。中には、ソフトウェア開発プロジェクトの特性についての理解が低く、自分たちの期待は何か、何を必要としているのか、明確なアドバイスや定義に関与する必要はないと思っているオーナーもいます。
一方、プロジェクト・マネジャー自身は、ヒアリング等で洗い出されたプロジェクト要件に対し、選択し優先順位の決定を行うまでの権限を持っていないことも多く、調整するための時間も限られています。要件定義にかかわるグループが沢山あり、それぞれが持つ完成したソフトウェアへの期待にズレや対立がある場合、プロジェクト・マネジャーは、プロジェクト要件の選択や優先順位づけにさらに苦慮することになります。
様々で相反する可能性のある要求から、真に必要なプロジェクト要件を選択し最終決定する権限は、プロジェクト・オーナーにあります。プロジェクト・マネジャーは、要件定義のフェーズの中で、プロジェクト・オーナーと共に、このプロジェクトにより何を行いたいのかにつき、真剣かつ具体的に検討しておかないと、必要な機能が不足したり、使われない機能に時間やコストが費やされるなどし、プロジェクトの成功を危うくすることになります。
プロジェクト・オーナーには、どのようにソフトウェア開発をするというのではなく、そのプロジェクトの真の目的や狙い、必要となる要件につき、正しくプロジェクト・マネジャーに伝えてもらうことが必要です。その上で、プロジェクト・マネジャーは、プロジェクト・オーナーの要求に合致した品質・コスト・納期を満たすよう、プロジェクト組織を編成し計画を立案し、プロジェクトを実施できるようになります。すなわち、プロジェクト・マネジャーは、プロジェクト・オーナーが、強力なプロジェクト・サポーターであることを認識し、プロジェクト・オーナーの持つ力を活用することが肝要です。
プロジェクト・マネジャーは、確かな要件定義をすることにより、費用対効果、プロジェクト目標、プロジェクト成果の明確な関係づけができることを、プロジェクト・オーナーには十分理解してもらう必要があります。さもないと、そのプロジェクトは、プロジェクト・オーナーが期待する満足のいく結果を生み出せないでしょう。
プロジェクトの失敗は、プロジェクト・オーナー自身を最も傷つけます。なぜなら、彼らはそのプロジェクトのために資金を提供し、そのソフトウェアを使って投資を回収することを期待していたのですから。プロジェクト成功のために、プロジェクト・オーナーの力を最大限活用することは、プロジェクト・マネジャーの義務であり、責任であると言えます。